指先に、熱



「えっ?」
「うん、誕生日。今日」

短い冬休みが終わって、やっと会えた気になるクラスメイトの周りにやけに今日は人が集まるなぁ、なんて思ったから。
帰りのSHRが終わって、鞄に教科書とか詰め込みながらなんとなく聞いてみた。

「今日はやけに人が集まってたけど、なんかあったんスか?」
「今日ね、私、誕生日なんだ」

……で、最初の会話に戻るわけっス。
情けない。今まで散々先輩達や緑間っちに「バカ」だのなんだの言われてたけど、本当にそのとおりだった。
『気になるクラスメイト』、なんていって。
今日が誕生日だって聞いて、知って、こんなにショック受けてるんだったらもう『気になる』なんて括りなわけがない。

っちは、冬生まれだったんスね」
「うん。でも冷え性なんだよねぇ。冬に生まれたからって、寒さに強いわけじゃないみたい。ほら」

そう言って差し出された手は、指先の色が白を通り越して紫色をしていた。

「うわっ!!」
「……へへ、いっつもこんな感じでさ。ノート取るのも大変なんだ」

一瞬、オレの声にビクリと跳ねた肩。
一瞬、驚いたっていうか傷付いた眼をして、それから、ごまかすように『へにゃり』とっちは笑った。

「あ、あの」
「黄瀬くんは体温高そうだよね。やっぱりスポーツしてると代謝がいいのかな? 私も何かしようかなー。そしたら、少しは冷え性改善されるかな? あ、でも私運痴だから出来るのって限られちゃうか。ウォーキング? ウォーキングなら」
「あのっ!!」

だいぶ人の少なくなった教室だったけど、残っていたクラスメイトが驚いてこっちを見るくらいの声で、オレはっちの声を遮った。
……好きな女の子の大事な日に、こんな顔をさせたい訳じゃない。

「き、黄瀬くん? なにして……」

制服の袖口に隠れていたっちの冷たい指先を、両手とも、オレの手で包み込んだ。
背中をゾワッと冷気が走ったけれど、感覚を共有したみたいで、ちょっと嬉しくて眉が下がる。

「オレ、今日が誕生日って知らなくて」
「う、ん」
「だから、プレゼント用意してなくて」
「仕方ないよ。知らなかったんだから」

また。っちが『へにゃり』と笑う。
違うんだ。オレが見たいのは、そんな顔じゃない。

「プレゼントは、ちゃんと用意するっス」
「いや、いいよ。別にわざわざ……」
「だから! 今はこれで」

両手で包んだ冷たい指先を口元へ引っ張って、はー、と息を吐きかける。

「うわっ!! ちょ、えっ? えっ?! き、きせく、ん? なにして」
「誕生日プレゼント『その1』っスよ。今日からずっと、っちの手はオレがあっためるっス!!」

再び息を吐きかけて、ぎゅうぎゅうと小さな手を握ると紫色だった指先がほんの少しだけ赤くなった。

「どうっスか? 少しはあったかく……」

指先の変化はほんの少しだったけど、それが嬉しくて。
こんなことでも喜んでもらえたか不安で、確認するようにっちの顔を見たら、

「……もう、十分あったかい、です。てか、熱いくらい…です」

指先とは比べ物にならないくらい、頬が真っ赤に染まっていた。



「オレ、っちのことが好きです。だから……あとで返事、聞かせて欲しいっス」
「っ!!(もう勘弁して下さい!!)」

- end -

Happy Birthday to Okaken !!

13.01.10

site up 13.01.11