それを見つけたのは、本当にほんの偶然だった。 宿題のために借りた数冊のノートに紛れていたのを見つけたのは、どれも同じ表紙だったから。だから、決して見ようと思って見たわけじゃない。 まあ、そこからページをめくって中を見たのは、そう思って見たんだけど…… だがしかし。最初は本当に、ただの偶然だったということは分かってほしい。 「なにこれ?」 英語のノートを探して中を確認していると、最初のページが真っ白なノートが出てきた。だけど、新品というわけではないようで、次のページからは随分と贅沢な使い方がされていた。 1ページに3、4行。それも単語の羅列。 『声をかける』『だめだった』 『あいさつ』『できなかった』 「なに、これ?」 最初のうちは本当に、単語で3、4行。だけど、 『向こうからあいさつしてくれた。』 『名前を呼ばれた!』 ページが進むにつれて、これが日記だと分かってしまった。 (しかもこれ、見られたら恥ずかしくて死にたくなるタイプの日記じゃない?!) 内容はどう見ても恋愛、片想いをしているものだ。 そうだと分かると、人の日記を見てしまった罪悪感と、知りたいという欲求が体の中をグルグル回る。 (あと1ページ、あと1ページだけ。ここまで見たら閉じるから) 誰に向けた言い訳なのか……ここにはいない、貸してくれた本人へ向けての言い訳らしいものを頭の隅に浮かべながらページをめくる。 『髪型が変わっていた。とっても似合ってたのに、何も言えなかった。言いたかった。』 『部活がんばって!と言ってくれた。WC、勝てる気がしてきた。いや、必ず勝つ!!』 『明日こそは、オレから話しかける』 『なぜできないんだ!』 「……」 罪悪感と欲求に 後悔 が加わって、体の中、頭の中がグルグルする。 アイツは、森山にはちゃんと好きな人がいたんだ。普段はあんなにちゃらんぽらんで、女子と見れば誰にでも声を掛ける様な軽いナンパなヤツなのに。 こんなにちゃんと、真っ直ぐに、一人の子だけを思ってる。 (私も髪型変えたことあったのに。頑張ってって、言ったことあるのに。) 森山が日記に書いてる子を好きなように、私も森山の事が好きだった。 だから、森山から話しかけられない事に気が付かないフリをして、私から話しかけた。ちょっとでも気を引きたくて、髪型を変えてみたり。クラスメイトという事を理由に部活の応援をしてみたり。 だけど、森山には好きな人がいた。だから、私は気にもされなかった。話しかけてもらえなかったんだ。 こんな思ってもみない形で失恋した私の手が、最後にあと1ページだけとめくったページに書かれていた文字が、理解できない。 読めるけど、理解できない。だって、 『にノートを貸す。明日こそ、オレから話しかける。』 とは、私の名前だ。 「」 「んー、なに?」 「オマエ、この間の英語の授業休んでいただろう? 宿題、大丈夫なのか?」 「あはは……あんまり大丈夫じゃない」 「だろうと思ったよ。ほら、ノート」 「え、いいの?」 「ああ」 「やった!! ありがとう、森山!!」 「その代わり、今度可愛い子紹介してくれ」 「はいはい」 小さなことからコツコツと。 「ないっ! オレのノートがないっ!!」 「さっきにノート貸してなかったか、オマエ」 「……ハッ!!!」
とても小さな約束を1つだけしましょう / Title by Raincoat. |