「緑間の下に後輩が出来るんだねぇ」 「日本語がおかしいのだよ」 「ほら、そういうこと言う。よくそれで中学時代副部長やってたねぇ」 小さな両手に抱えきれない花束や荷物(ほとんどは荷物のようだ)に、見兼ねて手助けを申し出たのはつい先ほどの事。 前が見えないのでは……実際、見えていないからフラフラと歩いている姿を見つけ、「さん」とオレの呼ぶ声に振り向いたときに、その腕から小さな花が落ちた。 「あ、」 「!! 待、」 落ちた物を拾う、それは当たり前の事だが。自分の状態を考えて欲しかった。 「……あー…」 「……だから言ったのだよ」 拾おうとした結果、彼女の腕の中の荷物は半分ほど地面に広がった。 「ありがとう。……でも、なーんか心から感謝出来ないんだけど?」 「自業自得というものなのだよ」 「そう?」 「そうです」 結局、地面に広がったものと彼女の腕に残ったものを振り分け、今オレの腕には彼女の腕を占めていた荷物が、彼女の腕には色鮮やかな花束がある。 「それにしても……」 「なんですか?」 「男子バスケ部のマネージャーなんだから、こんな花束なんて期待してなかったんだけど。フフッ、誰が選んだの? この可愛い花束」 その花束を見る目は、そっと愛しむように撫でる手は、部活中、ボールを拭いていた姿と似ていて、微かに部活中の体育館の匂いがした気がした。 「……」 「どーせ、高尾あたりだろうけど」 「……」 (貴方が褒めた花束を選んだのが自分だと告げたら、どんな顔をするのだろう?) この人の、色々な顔を見てきた。新入生を安心させるための穏やかな笑顔、部員同士の小さな小競り合いに苦笑い、親しい者に見せる心からの笑顔。仲間だから本気で怒ったところも、選手でなくても共に戦ったからこそ流す涙も。 ただ、見てきた。 「あ、もしかして緑間が選んでくれたの?」 「なっ!?」 「うそっ!? 本当に? ……ああ、ちゃんと見たら緑間っぽいわ。うん、緑間らしい」 「……たかが花束ごときで、オレらしいとはなんなのだよ」 零れた恨み言は小さかったが、それでもそんな言葉が自分の口から出たことに驚いた。こんな事、例え思っていても口にするつもりなどなかったのに。 「分かるよ」 頬を風が撫でる。暦の上では春となった今でも、その風はまだ冷たい。 「たった一年、て思うかもしれないけど。まあ、実際は一年もなかったんだけどね。でも、ちゃんと分かるよ。分かるくらい、みんなの事ちゃんと見てたからね」 吸い込んだ空気が冷たくて、鼻の奥が少々痛む。 「改めて、『ありがとう』」 青い空の下で、今まで見てきた中で、一番綺麗な顔で笑いながら彼女はオレに手を差し出した。 「こちらこそ……『卒業、おめでとうございます。先輩』」 オレは、今まで見せてきた中で、一番情けない顔をしながら彼女の手を取った。 初めて繋がれた手はゆるやかに、ゆっくりとほどけた。
Title by 24番目のネジ /
2014.05.11 『春風』提出 |