オレって、「かわいい」「おもしろい」「いい人」「器用貧乏」……って、「器用貧乏」って言うな!!
「はぁ……」
「なに? 溜息なんかついちゃって。ただでさえ少ない幸せが更に減るわよ? つかもうコガの幸せエンプティじゃない?」
「ちょ、オマっ! そんな思ってても言っちゃだめだろー!!」
今日の日直はオレと。
部活前に机挟んで日誌と格闘中のオレ。
「てか、は今日なにした?」
「私? 私はコガが寝てる休み時間に黒板消してー教材の準備してー朝は日誌を取りに行ってプリント配布頼まれてーそれからー」
「……喜んで日誌を書かせていただきます」
「うむ、よろしく頼むぞ。小金井くん! あ、綺麗な字で書いてね」
日直の相方、は去年も同じクラスで、こんな感じだから何かと話しやすい女子。
かと言って、男友達と同じかといえば……それは違うわけで。
そこがオレの悩みの種なわけですよ。
何が楽しいのか、オレが書く文字を目で追って、鼻歌なんか歌ってる。
オレは日誌を書きながら、そーっと目線を上げてを観察してみる。
オレの髪も柔らかい方だと思うけど、の髪とは比べ物にならないと思う。そう思うくらい、の髪はフワフワして見えるし、時々髪を耳にかける仕草にドキドキしっぱなしなんですけど!!
髪の下から現れた耳も、髪を掛ける指も真っ白って、女子ってナニで出来てんのっ!?
姉ちゃんともカントクとも違う、おんなのこ。
(ヤバい……意識したら顔が熱くなってきた!!)
「ん? どしたの、コガ?」
「なっ、なんでもない!! 全然全く、問題ない!!」
こっそり見てたのがバレてはないと思うけど、それでもイケない事をしてたのが見つかったみたいな気持ちで、オレは慌てて日誌に目を戻した。見慣れた自分の字。下手じゃないけど、上手くもない。
「って、どんな字書くの?」
「どんなって、普通だよ」
ふと浮かんだ疑問を、頭で考える事もなくそのまま口に出せば、は特に疑問に思うことなくオレの筆箱からシャーペンを取り出すと、日誌の余白にサラサラとそれを走らせた。
「こんな字」
「へ、へー……」
たかが字、されど字。書かれた文字見て顔が熱くなるって、オレ、相当マズいんじゃね?
だって、が書いた文字は『小金井慎二』
オレの名前
「どしたの? さっきから進んでないよ? ほら、さっさと書かないと部活行けないじゃん」
「おぉ、」
相手にどう思われてる、なんて気にするのは女子だけじゃない。男だって気になるわけで。
そんな気になる相手が、自分のフルネームを漢字で書いてくれた、ってことは、知っててくれてたってことで。
それがこんなにも嬉しいなんて。
「オレの幸せ、今マックスかも」
「それはおめでとう。ほら、早く書く!」
だから、オレも。
気持ちを込めて日直のとこに、キミの名前を書かせていただきます。
「コガー、ここは名字だけでいいんだよ? てか……私の名前、知ってたんだ」
「お、おぅ!」
- end -
12.10.22