「女の子にもフラれたことないんスよ〜?」
「サラッとイヤミ言うのやめてもらえますか」
うん、オレってばフラれたことはないんスよ。でも、それはオレが告ったことがないから。
ないから、当然フラれることもなんス。
それに……告る前から、失恋してるスからね。
同じクラスで、隣の席で。他の女の子みたいにキャーキャー騒がないし、普通の話が出来るんで「試合、見に来ないっスか?」て誘ったのが、最初。
別にその時、オレは彼女に、っちにホレてたわけじゃなくて、純粋に友達として応援してもらいたいって思ったから誘って。
そして、試合の後にっちから「黄瀬んとこのキャプテン、かっこいいね」なんて言われても「でしょ! ちょっと不器用な人っスけど、スゲーんスよ!」なんて、ちょっと誇らしい気持ちで笑っていた。
それがいつの間にか、オレの中でっちは特別な女の子に変わっていて、っちの中でもセンパイが特別に変わっていて。
「ねぇ、黄瀬。今度の試合、さ。さ、差し入れ……いや、なんでもない」
「持ってくればいースよ。オレから、センパイに渡すっスから」
「いやいやいや! それはいい! センパイ個人宛とかムリだからっ!! 差し入れするなら、『バスケ部』に差し入れするから!!」
もじもじと指を組んだり、顔を真っ赤にして声が裏返ったり。本当、可愛いっち。
オレの前で見せるこんな可愛い仕草は、全部センパイを思ってのことなのに。
「っちは、センパイに告んないんスか?」
「えぇ!? そんなムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリ」
「なんでそんなに全力否定なんスか? っち可愛いし、結構いい線いってると思うんスけど?」
自分で自分の首を絞めてる自覚はあった。それでも、言わずには言われなかった。
とっとと告って、女子が苦手なセンパイに振られてしまえばオレにも可能性がある。
いや、っちを振り向かせる自信があった。だから、背中を押した。
のに、
「…………っち?」
「…………」
放課後の教室。忘れたプリントを取りに戻ったそこで見たのは、自分の席で突っ伏しているっち。
声を掛けても顔を上げる気配がないのを不思議に思って近づいたら、その肩が小さく震えていた。
「っち」
「……黄瀬の、うそ、つき」
聞こえた声は鼻声で。震えた声が、泣いていると伝えてくる。
「セン、パイ、女子と話してた。綺麗な人、だった。ずっとセンパイ見てたけど、あんな風に笑って、女子と話すセンパイ、初めて、見た、よ」
「あんな綺麗な人、きっと、誰、だって好きになる。もう、ダメだよ……私なんて……」
『今だ』、て頭の中で誰かが囁いた。今なら、っちはセンパイの気持ちを知らない。
センパイも、っちの気持ちを知らない。2人は知らないまま、何も始まらないまま終わる。
「そんなことないっスよ。っちは可愛いって! オレが言うんス、自信持って。ね?」
−震える肩を抱き寄せて、耳に甘い声で囁いて、オレしか見えないように、
「それに、その人は彼女でもなんでもないっス。それはオレ達部員全員が知ってるんスよ。だから、望みを捨てちゃダメっス」
−メチャクチャに甘やかして、メチャクチャに溶かして、オレしか見えないように、
『あー……黄瀬、オマエのクラスメイト? たまに応援に来てるあの女子、名前、なんて言うんだ?』
『うわっ!! 聞いたか? 笠松が女子の名前聞いてるぞ?!』
『う、うるせー!! シバくぞっ!!!』
「もしセンパイにフラれたときは、オレがセンパイをシバいてやるっス!!」
「……ふふっ、出来ないクセに」
やっと顔を上げたっちの目は真っ赤だったけど、それでも笑ってくれたことが嬉しかった。
オレが、っちを笑顔にしてあげられたことが、嬉しかった。
「また試合、応援に行ってもいいかな?」
「遠慮なんかしないで、どんどん来ればいーんスよ! あ、っちからの差し入れも大歓迎っス!!」
「うん、ありがとう。黄瀬」
「黄瀬がいてくれて、本当によかった」
嬉しいのに、その何倍も、胸が、痛かった。
- end -
12.11.10