ずっとずっと、このままならいいのに。
そう願いながら、私は目を閉じる。
彼、黄瀬涼太の自由な放課後はとても少なくて。
そんな少ない時間を私と一緒にいてくれるのだから、『特別』なんだと思ってしまうのは仕方ないと思う。
けど、そう思っているのは私だけ。私と黄瀬は、『友達』だから。
いつだったろう。何週間ぶりに一緒に歩いた駅へ向かう道の途中で、好きな人の話になったことがあった。
「好きな人? いるよ」
「えっ?!」
「そんなに驚くことぉ?」
「あ、いや、その……っちのそういう話、聞いたことなかったっスから」
……正直、期待してた。黄瀬がうろたえるのは、私のことを少しでも意識してくれたからなんじゃないか、って。
私のことが、ほんの少しでも黄瀬の中で気になる存在だったら、私の言葉に焦ってくれるんじゃないか、って。勝手に期待して。
でも、なにも変わらなかった。しばらく待ったけど、変わる気配は全くなくて。
改めて、私は黄瀬の中で『友達』なんだと教えられた。
(そうだよね、多くを望んだらダメだよね。こうやって一緒に帰ってくれるだけでも『特別』なんだから)
今日も、前もって約束をしてたわけじゃないのに、一緒に帰っている私達。たわいもない普通の話をして、笑って、ボケて、ツッコんで。
そんな、友達としての『特別』でいい。そう思った。
だけど、
電車の揺れに合わせて目が閉じて。体の片方に感じる、柔らかい温もりが私を夢の世界に運んでいく。
夢の中の私は、黄瀬の『特別』で。
『っち!』
私の名前を呼んで、嬉しそうに笑う黄瀬を見て、胸が苦しくなる。
(このまま、夢の世界にいられたらいいのに)
「き、せ……」
ねぇ、夢の中の私はちゃんと笑えてるかな?
- end -
13.04.25