「「センパイっ!!」」
「うるせーっ!!」
ハモる声は相乗効果となって倍率ドンっ! 更に倍っ!! そんな感じでとにかく耳に痛ければ神経を逆なでする。
けれど、どんなに怒りの形相でにらみつけても、コイツらは目をキラキラさせて尻尾を千切れんばかりに振ってくる。
……尻尾が見えるとか、どんだけ疲れてんだ? オレ。
「聞いてくださいよー! っちてばヒドイんすよ!! オレの部活用に取っといたパン食べちゃ」
「聞いてください笠松センパイっ!! 黄瀬ってば、私にパンの毒見させたんですよ?! ファンの女の子から貰ったこと言わずに、私に食べさせたんですよ! ひどくないですか!!」
「ちがっ!! っちが勝手に食ったんじゃないスか!!」
「ひどーい! 黄瀬ってば私のせいにするのー!!」
放っておけば延々ぎゃーぎゃーわめき続けるこの二匹は、何故かいつもオレを挟んで騒ぐ。
ったく、オレは、
「オレはオマエらの先生でも母親でもねー!!」
ゴンッと鈍い音をたてて、二人の頭に拳骨を落としてやれば静かになる。
「センパイ……い、いたいっス……」
「笠松先輩、私、一応、女です……手加減、してください……」
しゃがみこんだ二匹はさっきとは違う、涙で潤んだ目でオレを見上げてくる。
「自業自得だろうが。ちっとは反省しろ」
そう言って、オレはさっさと部室へ移動する。
さっさと、気付かれないように。
……
…………
「やーっぱり、笠松先輩って可愛い」
さっきまで豆柴のような雰囲気を出していた、一緒に拳骨を貰った彼女、はセンパイの背中が見えなくなった途端、ペロリと唇を赤い舌で舐めながらそう言った。
「いつもながら、っちのそのギャップは凄いっスね〜。ある意味、尊敬するっス」
「嘘ばっかり。『女ってこえー』て、本当は思ってるくせに」
クスクスと笑う顔は、どう見ても『犬』の雰囲気はない。
「でも、どうしてこんな事するんスか? 普通に告ればいいのに」
「普通? 普通に告白して、うまく行くと思う? あの、笠松先輩だよ?」
「あー、……まあ、確かに」
女子が大の苦手なセンパイ。男前で、頼りになるキャプテンであるセンパイを密かに想っている女子は結構多い。
でも、誰もセンパイには近づけない。
先輩は、『女子』が苦手だから。
「だから、黄瀬と同じだったら近づけるかなって思って」
「オレ?」
「そう。センパイって、後輩に頼られたりしたら断れないじゃない? あと、犬とか無条件で好きそうじゃない?」
「オレ、犬っスか……」
「ふふっ、ごめんね?」
ふわり、と。それはそれは女の子らしい顔と声で笑うっち。
こんなに可愛いのに。こんなに可愛いっちを、センパイは知らない。
「でも、もうそろそろいいかな?」
「そろそろ、スか?」
「うん。もう十分近づけたから、今度は意識してもらわなきゃね」
笑う目が、変わる。
それはまるで、肉食獣が獲物に飛び掛る寸前のような、目。
「……女子って、おっかないっスね」
「知らなかった?」
この時初めて、オレはセンパイに深く深く同情した。
(センパイ、骨は拾うんで安心して食われて下さい)
- end -
12.12.08