待って、って言ったのに



「待って、って言ったのに」

いつもそうだ。私の方なんか見向きもしない。
都合だっていっつもアッチ優先。……そりゃあ、私の週末の予定なんてすっからかんだけど。
スタスタと歩く歩幅は普段と変わらなくて。私はその後ろ3歩、なんて言わない距離を早足で追いかける。
隣に並べない。手を繋いでくれない。振り向いてもくれない。なんで、

(……なんで、私の告白をOKしてくれたの?)

週末、激しい雨の中。ただでさえ一緒にいても距離があるのに、こんな状況ならはぐれて当然。
晴れた日なら、こんな街中で泣いていれば変な目で見られたと思う。
けど、今日は。買ったばかりのピンクのボーダーの傘を低くしていれば誰にもバレない。

(傘の中で泣くなんて、なんて少女漫画!)

立ち止まり、ひとしきり泣けば気持ちはクリアになって。今の状況を自分でも笑えるくらいにはなった。

(そうそう、こんなの分かってたことじゃない。それでも好きなんでしょ? 好きなら仕方ないって)

告白して、OKをもらって。何度かデート……らしきことをしたけれど。
いつも今日と同じような気持ちになったことを思い出す。

『なんで、私の告白をOKしてくれたの?』

流れで女子からの告白をOKするような人間じゃない。
なんとも思ってない女子と、部活の休みの日に外で会ったりしない。

傘を上げて前を向けば、私を見る強い視線。キュッと結ばれた唇。その目はとても雄弁だ。

(そんな風に心配してくれるなら)

歩調は緩めなくても、立ち止まってくれるなら。私を、見てくれるなら。

「待って、って言ったのに!」

(もう少しだけ、頑張ってみよう)

勢いよく踏み出した足は、靴下まで冷たく濡れていた。

- end -

14.08.16