「ねぇねぇ、の好きなタイプってどんな人?」
「えー……」
昼休みの、そんな何気ない会話。
いつも何組の誰くんがカッコいいとか、何部の先輩がカッコいいとか、そんな話に花が咲く女子高生。
ま、私もそんな女子高生の一人なんだけど。
「そうだなぁ……」
飲みかけだった野菜ジュースのストローを咥えながら、空を見上げた。
好きなタイプ=好きな人、ではないと言うことが最近分かった私に、この質問はなんともビミョーなものだ。
私、。高校2年にして、本気の好きな人が出来ました。
いや、中学時代も好きな人はいたよ。いましたとも。ええ、初恋は幼稚園だと思ってましとも!!
……でも、あの人を好きだと気がついてから、そんな過去の恋は恋と呼ぶのも恥ずかしい程幼稚な気持ちだった事に気がついてしまった。
だって、こんなに胸が痛くなる気持ちなんて知らない。
こんなに、夜眠る事が出来なくなる想いなんて。
「タイプでいうと、インテリ系? 細マッチョがタイプかも」
「あー、分かる分かる!! 朝ドラのあの人とか」
「うんうん、いいよね。あの人」
なんて、本当に好きな人は、インテリでも細マッチョでもなかったり。
私の好きな人は、背が高くて、お日様みたいに笑う人。
今年初めて同じクラスになったけど、彼がいるのといないとではクラスの空気が違う。
そう感じたのは、彼が入院していたから。
何度お見舞いに行こうかと思ったけど、ただのクラスメイトである私が理由もなく一人で見舞う事なんて無理な話で……
でも、他の人との会話から聞こえるちょっとズレたところも、黒飴をモリモリ頬張るところも、全部聞いて・見ていたくて。
(あー、もう本当、携帯機能全部木吉くんデータで埋め尽くしてぇ……)
友達の会話に適当に相槌を打ちながら、また空を見上げた、ら、
「の好みはインテリ細マッチョなのか?」
「っ!!!!」
上から覗きこんだ顔に、聞こえた声に一瞬呼吸が止まる。てか、心臓が止まる!!
「き、木吉くんっ!? え、いつから、え、え、あの、え、聞いて……」
「そうか……は日向みたいなのがタイプなのか」
「え、日向? え、いや、あの、え?」
いつの間にか私の横に座り込んだ木吉くんは、何か一人で納得したような……納得してないような顔でうんうん唸っている。
「日向って、バスケ部の? ……あー、確かにの言ってたタイプに当てはまるかも。メガネかけてて細マッチョっぽいよね! え、もしかしての好きな人って……」
「そうなのか?」
なんだかとてつもなく変な方向へ全速力で話が進んでいく。そんなスピードの会話と、好きな人がすぐ横にいる緊張感で頭が正常に働くはずなんてないわけで。
「違う違う!! 私の好きな人は木吉くんなんだっ!て、ば……」
力の作用、なんて授業で受けたけどその法則なんてすっかり忘れた私でも分かる。
全速力のものを無理やり止めると、衝突したときの衝撃はハンパないってこと。
「……………………………」
「……………えっと……」
「…………、大丈夫?」
(大丈夫なわけあるかぁぁぁぁあああああ!!)
そうは思っても、何も言えずに私はただ俯いた。というか、失敗した。何か言えばよかった。
「好きな人は木吉くんなんだ」って言った後、何かしらフォローすればよかった。ごまかせばよかった。
後の祭り、なんだけど。
重い沈黙。微妙な空気をヒシヒシと感じながら、私も友達も何も言えないでいると、隣から「フフッ」と笑い声が聞こえた。
「?」
「いや、悪い。笑うつもりはなかったんだが……そうか、はオレのことが好きなのか……そうか……」
「???」
私も、周りの友達も木吉くんが何を言いたいのか分からずに、ポカンと彼を見つめる。
てか、なんか嬉しそうに見えるのは私の願望のせい?
「そうそう、ちなみに」
よっこいしょ、なんて言いながら立ち上がった木吉くんは、空に向かって大きく伸びをした。
座ったまま見上げる彼は、そのまま空に吸い込まれてしまいそうなほど大きい。
「オレの好きな子はだ。これ、日向やリコ達には内緒な」
にこやかに笑って爆弾を落として、彼は上機嫌に歩いていってしまった。
「……ねぇ、今のって」
「私に聞かないでよ……」
携帯の機能が埋まる前に、私の中が木吉くんでいっぱいになってしまった。
- end -
12.10.22