「先輩って泣くんすか?」
「んー、最近泣いてないね」
「先輩が泣くとか想像できねーすね!」
「よーし、じゃあ泣かせてもらおうか」
「は?」
「WC優勝して、嬉し泣きさせてよ」
「ハハッ!りょーかい」
そう約束したのに。
「来年、頑張ってね」
そう言って、先輩は笑った。
赤い目で、笑った。
ただ、見ているだけでいい。
振り向いてほしいなんて思わない。自分のものにしたいなんて思わない。
ただ、笑っていてくれたら。
それだけで。
「ちょっと、人の顔見てにやにや笑うの止めて」
「いやだってwwwオマエの顔wwwちょーウケるwww」
「何が!どこが!」
「そういう顔が」
笑ってて。ずっと。
「笑え」
高尾は今にも泣きそうな顔をして、そう言った。
「笑えってば!」
強く掴まれた肩が痛くて眉を顰めたら、もっと泣きそうな顔をした。
「頼むから笑ってくれよ。オマエが笑ってくれなきゃ、オレ…」
『諦められねーじゃん。オマエのこと』
…そんな事言われて、笑えるはずないのに。
「先輩!」
無邪気に…いや、能天気に呼ぶ声に顔の筋肉を引き締めて、大きくため息をついてから振り返るれば、声のまんま、笑った顔がそこにあった。
「宮地先輩」
「なんだ」
「へへ、呼んだだけです」
「轢くぞ?」
「先輩に轢かれるなら大歓迎です!」
「…馬鹿だな」
ニヤケてるオレもな。
触れた指は偶然か、それとも意図的かなんてわからない。
わずかに触れたその場所から熱が広がって、きっと今の私の顔は真っ赤に違いない。
「どうした黒子。顔あけーぞ?」
「なんでも、ありません」
そっと彼の方を見たら、私から見える彼の耳は赤く染まっていて。
…私だじゃないんだね。
13.02.04