バレンタインの翌日に雨が降るって、なんかね…
そう言って彼女は暗い空を見上げた。
「なんだよ、本命にやんなかったの?」
どんな返事だったとしても傷付くだけなのに、問いかけずにいられない自分の性分がもうやだ。
人気者すぎて、私のなんかいらないかなって…
俺なら、欲しい。絶対。
いつも笑っている彼が、私の前では笑わなかった。
それでも、互いに好きだと信じていたから構わなかった。…はずだった。
笑わない彼と一緒にいることが苦しくて、手を離したのは私。
笑わない、それが彼の最大級の甘え方だったなんて。
それは特別だったのに、私は彼の何を見ていたの?
「小金井くん」
「ん?どーした?」
「ここ分からないんだけど…」
「あー、それはね」
「小金井くん」
「ほいほい」
「これ、実習で作ったんだけど」
「おー、サンキュ!…お、うまい」
「小金井くん」
「なに?」
「好き、です」
目の前は真っ暗。
「オレも」
聞こえた声は、すぐ近くからだった。
「可哀想に」
そう言って氷室は私を抱きしめた。
包まれた腕の中は暖かくて、心地よくて。 大きな手が柔らかく私の髪を撫でる。
「あんなヤツ止めて、オレにしなよ」
耳元で囁かれる甘い声に、心は溶けてしまった。
私は知らない。
凭れ掛かる私の頭の上で、嬉しそうに笑った彼の顔を。
「ど、どうしたんスか?!」
『…うるさい』
机に伏せる私を見つけた黄瀬が近づいてきた。
「だって、さっき彼氏と帰るって」
『…たの』
「え?」
『振られたの!』
突然告げられた別れの言葉。私はまだ、こんなに好きなのに。
彼はもういない。
「…スか」
『なに?』
「オレじゃ、駄目っスか」
13.05.09