「お疲れ様」
そう言ってボトルを差し出したら、何故か私の手も一緒に握られて。
「な、なによ」
「ぅ、あ、いや、うん」
口ごもってるのに、目は泳いでいるのにその手は離れない。
(コガのくせに!)
大きくて、硬い手。普段はそんな風に見えないのに。
(…コガのくせに)
やっぱり男子なんだ。
「へへ〜」
酔っぱらったコガは、普段の見た目同様に猫っぽくなるから困る。
男のくせに柔らかい頬をスリスリしないで!勝手に人の足を枕にしないで!
「相変わらずね」
そう言ってリコちゃんは笑うけど、他の目が!痛いんですけど!
「でも、オマエが一緒の時だけだよ。そんな風になんのって」
そばにいて。そばにいる。同じようで全く違う言葉。
「そばにいてね」
「いるだろう?」
見下ろす赤い髪は遠くて。背伸びしても、手を伸ばしても届かない。
「そばに、いて」
「だから」
伸ばした手を戻そうとしたら。ふわり、体が浮いた。
「連れてくから安心しろ」
目の前に赤い髪。手が届いた。
ちょっと引っかかってることがある。
「小金井くん」
「ん、なに?」
これ。この『小金井くん』て呼び方。
まあ、男だったら呼び捨てにされる事もあるけど、でも殆どが『コガ』て呼ぶのに。
「あの、さ」
「え」
自分から言うのって変かもしれないけど。でも、キミに呼んで欲しい。
「オレのこと」
「会いたいな」
ポツリと零れた声は、自分でも情けないくて笑えるくらい小さくて、弱くて。
『こんなの私じゃない』そう言った私に『どんなでも、オレは好きっスよ』って。
クシャリと髪を撫でてくれた彼はそばにいない。
「会いたい…」
どんなに願っても会えるはずないのに。
「会いたいよ」
13.05.09