何も知らない。知りたくない。
だって、少しでも知ってしまったら全部を知りたくなってしまうから。
「あ、今月キセリョ特集だ!」
友達が手に取った雑誌から目をそらす。
大丈夫、視界に入っていないからセー…
「アレ?買わないんスか?」
反らした視線の先には笑顔。
「実物のがいいっスか?」
「遠くに行きたい、て言ったら」
どうする?そう不安そうに縋る様な目で聞くなんてズルい。
「どうして欲しいの?」
「どうしようか」
泣きそうな目で笑うなんて。
「言えばいいのに」
「なんて?」
ねぇ、何がそんなに不安なの?
「辰也の言葉で聞かせて」
私の答えは決まってる。
どこまでも
「俺にしときゃいいじゃないスか」
笑顔なのに、見下ろす視線は限りなく冷たい。
「最初から俺にしとけばよかったのに」
「っ!!」
踏む足に力が加わり、固い地面に押し付けられた肩が軋む。
「き、せ」
涙で滲む視界の中で、黄瀬が笑う。
「そんな目で見ても無駄っスよ」
『もう、よそ見なんて許さないっス』
「今日はラッキーアイテム持ってないんだ?」
珍しい光景に足を止めると、テーピングされた手が伸びてきた。
「え?」
「…」
「あ、あの、緑間さん?」
「…黙れ」
いやいや無理ムリ!だって、これどう見ても抱きしめ
「今日のラッキーアイテムは…お前なのだよ」
「そう、ですか」
えっと、今日一日中ですか?
隣に並んで歩いていた木吉の大きな手が、私の頭をガシッと掴んだと思ったら、ワシャワシャと動かした。
「ちょ、わ!木吉!タンマ!ストップ!」
「なんでだ?」
手の動きに合わせて揺れる視界に、頭の中まで揺れてきた。
「やめてってば!」
「すまん」
もう!と見上げたら「可愛かったから、ついな」って。
13.06.06