バスケ部員が廊下を走ってやってくる。
「あ、丁度いいところに!」
笑顔全開のリコちゃんが、私に何かを投げた。
「え」
「後はよろしく!」
ポンと、すれ違いざまに頭や肩を叩いて走り去る部員達。最後にやってきたのは
「日向?」
私の手には、彼の眼鏡。背伸びして、それを定位置へ。
「誕生日おめでとう」
「あの」
「ああ、宮地?ちょっと待ってね」
何度かクラスに来たことのある背の高い後輩に声を掛けられた。
「いえ、貴方に」
「私?」
「はい」
「えっと、なに?」
首が痛くなるほど見上げる長身の後輩が、私を見下ろす。
「名前を、教えて欲しい」
「…」
「だから!」
長身は俯いても、下からは丸見えだった。
「あ、お帰り」
部活帰り、道の先に彼女の背中を見つけた。
「今帰りですか?」
「そ。大人は大変なのよ」
そう言って笑う顔はいつもより少しだけ高い位置にある。
「真太郎くんも部活、お疲れ様」
「ありがとうございます」
ほの暗い闇の中で笑う顔は、クラスの女子とは違っていて。
それが何故か悔しかった。
「馬鹿め」
頬をつねられたことよりも、馬鹿と言われたことよりも。何よりも驚いたのは、その顔だった。
きっと緑間は気がついていない。
細めた目が、柔らかな弧を描いていることを。口の端が、緩やかに上がっていることを。
「何を呆けた顔をしているのだよ」
「べ、別に」
私だけが、その顔を知っている。
狭い部室に二人きり。それも、好きな人と。
(苦しい)
嬉しいはずなのに。息が上手く出来なくて、心臓が痛くて、苦しい。
「「はぁ」」
静かに大きく吐き出した呼吸が重なる。
パッと顔を上げると、視線がぶつかった。
「な、なんなのだよ」
「う、ううん。別に」
私だけ、じゃないのかな?
13.06.06