Log-13


【 日向/誕生日 】

バスケ部員が廊下を走ってやってくる。
「あ、丁度いいところに!」
笑顔全開のリコちゃんが、私に何かを投げた。
「え」
「後はよろしく!」
ポンと、すれ違いざまに頭や肩を叩いて走り去る部員達。最後にやってきたのは
「日向?」
私の手には、彼の眼鏡。背伸びして、それを定位置へ。

「誕生日おめでとう」


【 緑間 】

「あの」
「ああ、宮地?ちょっと待ってね」
何度かクラスに来たことのある背の高い後輩に声を掛けられた。
「いえ、貴方に」
「私?」
「はい」
「えっと、なに?」
首が痛くなるほど見上げる長身の後輩が、私を見下ろす。
「名前を、教えて欲しい」
「…」
「だから!」

長身は俯いても、下からは丸見えだった。


【 緑間 】

「あ、お帰り」
部活帰り、道の先に彼女の背中を見つけた。
「今帰りですか?」
「そ。大人は大変なのよ」
そう言って笑う顔はいつもより少しだけ高い位置にある。
「真太郎くんも部活、お疲れ様」
「ありがとうございます」
ほの暗い闇の中で笑う顔は、クラスの女子とは違っていて。

それが何故か悔しかった。


【 緑間 】

「馬鹿め」
頬をつねられたことよりも、馬鹿と言われたことよりも。何よりも驚いたのは、その顔だった。

きっと緑間は気がついていない。
細めた目が、柔らかな弧を描いていることを。口の端が、緩やかに上がっていることを。

「何を呆けた顔をしているのだよ」
「べ、別に」
私だけが、その顔を知っている。


【 緑間 】

狭い部室に二人きり。それも、好きな人と。
(苦しい)
嬉しいはずなのに。息が上手く出来なくて、心臓が痛くて、苦しい。

「「はぁ」」

静かに大きく吐き出した呼吸が重なる。
パッと顔を上げると、視線がぶつかった。
「な、なんなのだよ」
「う、ううん。別に」

私だけ、じゃないのかな?


13.06.06