狭い部室に二人きり。普段は人より誰より、よく喋る高尾が黙っているから。
(居心地悪いなぁ)
静かな空気が落ち着かない。
「なぁ、」
早く帰りたい、そんな事を考えていたら聞こえた声。
「なに?」
「好きなヤツいんの?」
「…は?」
心臓が止まるかと思った。だって、私の好きな人は。
狭い部室に二人きり。
「あー今日もキツかったっス」
「そうだね」
「そういえば」
いつもより饒舌な黄瀬くんにちょっと胸が痛い。
女の子に気を使わずにいられないんだろう。ファンを大切にする彼だから。
「黄瀬くん」
静かに彼の言葉を止める。
「お疲れ様」
気を使わないでいいよ、私には。
手紙を貰った。書いた本人そっくりの、生真面目な綺麗な字。
『お前に言っておきたいことがある。』
そこから数行の空白。次に書かれた文字は
『愛している。』
LINEよりも、メールよりも。手書きのその言葉に胸が震えた。
「緑間なに書いて…」
「なっ!見るな!!」
「あーっ!」
隣の席から上がった声にビクリとそちらを向けば、頭を抱える森山の姿が。
「どうしたの?」
「いや、なんでも…いや、違うな…」
そう言うと、森山は持っていたペンを机に置いて、こっちを向いた。
「手紙か直接か、どっちがいい?」
「え?」
「キミが好きなんだ」
「…え?」
「今日はキスの日だそうです」
「へー、語呂合わせじゃないよね?なんでだろ?」
「さぁ…でも、」
ちゅ。
声が聞こえなくなったと思ったら、頬に微かに何かが触れた感触。
「…」
「由来は知らなくても、きっかけにはなりますね」
「く、黒子さん?」
「はい」
なんでそんな普通なのよっ!?
13.06.06