「真太郎くん」
貴方にそう呼ばれる度、自分の名が特別に聞こえる。
「真太郎くん」
淡く色付いた唇が動くたび、違和感を覚える。
貴方は貴方のままがいい。飾らず、ありのままで。
「真太郎くん?」
いつの間にか並ばなくなった視線。見上げる視線を変えたい。
「好きです」
貴方の視線に、オレと同じ熱を。
突然の雨に足止めされた。
「よかったら…なんだ」
差し出された傘から覗いた顔は、よく知ったクラスメイト。
「てっきり雨に濡れた美女かと思ったんだが」
「はいはい」
こんな会話は日常茶飯事で。
だから、傷ついたりしない。
「何してる?」
「え?」
「帰るんだろ?」
隣に並んでいいの?
「リコはいーな」
「は?」
私の横でコートを見ながら、ノートをとるマネージャーがポツリとこぼした。
「だって…」
ギュッとノートを掴む手が白くなってる。
「…馬鹿ね」
トンと肩をぶつけても、二人とも目はコートを向いたまま。
「アナタがいなかったら、私、こんなにしっかりカントク出来てないわよ」
何とも思っていないからこそ、触れることが出来る距離がある。
「ほら、ここ」
「え、これが?」
「そう、この線がね…」
教室の隅、手を取って向き合う男女。互いに友達以上の好意がないことは明らかで。
だからこそ、誰も気に留めない。…自分以外は誰も。
「手相などくだらないのだよ」
夢を見た。小さな背中がより遠くへ、そして見えなくなる。そんな夢を。
「だからって」
「だって!夢だって分かってても、悲しいものは悲しいんスもん…」
日曜の朝。目が覚めたらキミはいなくて。いないのが当たり前だけど。
「早く一緒のベッドで寝たいっス…」
結婚式1週間前
13.07.04