窓の外は激しい雨。殺風景な部屋で、携帯が賑やかに着信を告げたのはほんの数分前。
「雨、激しいな」
「うん」
「なに?泣いてた?」
「泣いてないよ」
「泣くなよ」
「うん」
「明日晴れるといいな」
「うん」
「なぁ」
「うん?」
「幸せになろうな」
「…うん」
結婚式前夜、最後の電話
「忘れ物はないか」
「ないよ」
「順序は頭に入っているだろうな」
「大丈夫」
「それから…」
「大丈夫」
らしくもなく、口数が多い彼の手をそっと握って目を閉じる。
「大丈夫。だって、真太郎が隣にいるんだもん」
目を開けて笑えば、笑い返してくれる。
結婚式直前、控室の前でキスを。
「…みねさん」
「…」
「青峰さん」
「…」
「青峰さん」
「…あ、はい!」
「まだ、慣れないんですか?」
「さすがに一週間じゃ無理だよ」
そう言って、彼女は幸せそうな顔で綺麗に笑った。
「まさか本当に青峰くんと結婚するとは思いませんでした」
「え、」
「いえ、なんでもありません」
毎朝、マイカー通勤の私には密かな楽しみがある。信号待ち、横に並ぶ今は見慣れたリアカー。
(あ、今日も並べた)
車の中から微笑ましく眺めてると、クルリとこちらを見た高校生。
(お?)
見てた事がバレたのか、視線を逸らそうとしたら『ニコッ』と音がしそうな笑顔を向けられて。
ジューンブライドに憧れたのは彼の方。
6月の結婚式は招待客も、それ以上に本人達も大変でしかないということを、後になって身をもって知ったけど。
「けど、どんなに天気が悪くても、キミは輝いて見えるね。綺麗だよ」
ドレスが汚れないようにという名目で、お姫様だっこできるしね。
13.07.04