「今まで何をしていたのだよ」
日も落ち、暑さが落ち着いた頃に訪ねた彼はお怒り気味。
「だって七夕は夕方からでしょ?」
ずいっ、と笹を差し出せば驚いた顔。
顔に張り付いた短冊には『お誕生日おめでとう』
「…こういうことはちゃんと口で言うのだよ」
そう言って彼は私にキスをした。
からんころん、下駄を鳴らし歩く。
「晴れて良かったね」
「ああ」
「彦星と織姫も、今頃私達みたいにデートしてるかな?」
「…」
「本当、晴れて良かったね!」
見上げる空には、数年ぶりに見る天の川。
「明日も、」
「うん?」
「明日も、一緒に帰るのだよ」
「え、部活は」
「帰るのだよ」
「いきなり、なに言ってんスか」
つまらないことを聞いた、そんな風な顔をして髪をかき上げたけど、指が震えて。
だから、指を握りこんで。
「なに言ってんのか、オレにはさっぱり分からねっス」
声だけは。声だけでも、気付いてない振りで。
「別れたいとか、笑えないっスよ」
早く『冗談だ』と笑って。
バチリ、音が聞こえたと思う間もなく背中に衝撃。
「いだだ!」
それは止まることなく、バチバチと背中にぶつかり続けて、流れていく。
首だけ振り返れば、視線の先には赤い髪。
「涼しくなったかい?」
青い空を背にして無邪気に笑う顔に、なぜか泣きたくなった。
そうやって笑っててよ。
普段は「推しメンが」とか「轢くぞ」とかしか言わないくせに。
真剣な目、聞こえる声は体育館に低く大きく響く。
汗が蜂蜜色の髪を伝って、毛先に溜まって。
ぱたり、
(宮地のくせに…!)
顔が熱いのは、体育館の熱気のせい。夏の、せい。
聞こえた音は、
恋に落ちる音がした。
13.08.17