(なんて言おう)
昨日からずっと考えてた。
最近やっと挨拶を返してくれるようになった彼の誕生日に、なんと声を掛ければいいんだろう?
(困らせたくない。けど。でもなぁ)
考えながら靴を履き替えていたら、隣に並ぶ気配。
(あ、)
「おめでとう」
驚いた顔。
から、崩れるように笑顔。
「みぶっちゃん!」
「なぁに?」
見上げるほど高い背に笑顔で呼び掛ければ、愛想よく振り向く恋しい人。
「あのね、あのね」
「玲央」
「あら、征ちゃん。どうしたの?」
私と反対側から呼ばれた声に、あっさりと彼はそちらを向いてしまう。
「悪いわね」
「ううん」
行かないで、なんて。
「っ!?」
何が起きたのか分かっていない顔が見下ろす。
「今日はハグの日だって」
「なっ」
状況を把握したのか、首から一気に赤く染まる。
「だから」
背中から抱きつけばハグにはならないと分かっているけど、思い切り広い背中に抱きついた。
「こ、これではハグにならないのだよ」
「アイス半分こしよう?」
そう言ったのに、何も聞こえてないように立ち去られたのが一昨年で。
去年も同じ事を言ったら、眉間にシワを寄せて渋々、小さい方を分けてくれた。
今年は
「はい」
「え?」
「アイス、半分こ」
「ありがとう!」
「一緒に食べた方がおいしいに決まってるしぃ」
(手、つなぎたいな)
付き合ってもいないのに、急にそんなことされたら困るって分かってるけど、目が自然と手を追ってしまう。
「ん?手になんかついてるのか?」
「ううん」
「そういや」
「え?」
「オマエの手、ちっせーのな」
ペタリと合わせられた手のひらが、熱い。
13.10.06