「…」口の中に広がる、甘いいちごみるく。
「それ、あげる。おいしいでしょ?」
そう言う彼の顔はすぐそばで、私と同じいちごみるくの匂いがする。
「あまい」
「その甘いのがおいしいんじゃん」
『いらないんなら、返してね』
いつまでたっても、いちごみるくの匂いが消えない。
意識してないから、悪気がないから、だから…
『髪、短い方が似合いそうッスね』
そう、私の髪の先を握って笑ったから。
『あ!髪、切ったんスか。もったいない』
「だって、黄瀬くんが!」
『オレが?』
髪を切った私を見て、同じ顔で笑うから。
何も知らない顔で、私を見るから。
…もう、言葉は出ない。
いつか王子様が、なんて夢見た頃もありましたとも。だって、女の子だもん。
「どーした?」
「ううん、なんでもない」
「そっか」
そういって、彼は繋いだ手をブンブン振りながら歩く。王子様は、こんな事しない。
けど、
「慎二」
「ん?」
「誕生日おめでとう」
「おぅ!」
その笑顔が好き。
いつか王子様が、そう言って彼女は語る。自分の理想を。
オレとは違う、誰かの事を。
「ふーん、王子様かぁ」
「王子様は女の子の夢なの」
頬を赤くして言ってた彼女と、今は手を繋いで歩く。
なぁ、オマエの王子様って
「王子様は女の子の夢」
「…」
「でも、慎二は私だけの人。でしょ?」
例えば目が合うと笑ってくれるとか。
「おはよう」て挨拶してくれるとか。
移動教室の時にする短い会話とか。
隣に並ぶと背が高いこと、勉強が出来ること、面倒見がいいこと。
知れば知るほど好きになって。
「お誕生日おめでとう」
「ありがと」
「あと」
「ん?」
キミの全てが
「好きです」
13.10.06