「ずっと好きでした」
キミが笑う。
「ただ、私が好きだった。その事を言いたかっただけなの。だから気にしないでね」
へにゃり、眉を下げて。泣きそうな顔で笑うキミが愛しくて。
キミにそんな顔をさせるつもりはなかったんだ。
「オレも、ずっと好きでした」
だから笑って。
「ちょっとは自惚れなよ。アンタのためなんだしー」
そう言って、紫原は私を抱きしめた。
あの大きな体が私を包むのだから、何も見えない。
「オレが女子にこんなことするの、アンタだけだって気づいてないの?なにそれムカツクー」
うわん、と声が響いて聞こえる。
心臓の音も響いて、
「しゃんとしろ!」軽く背中を押せばその軽さに、
「無理すんな」肩を叩けばその薄さに、
「よくやったな」頭を撫でれば髪の柔らかさに
驚いた。
なんでこんなに気になるのか、目が追うのか。
撫でる髪の間から見えた、安心しきった顔に息が詰まる。
ああ、好きってこういう事か。
揺らさないで。水底に沈めたこの気持ちを、どうか揺らさないで。
「よっ!おはよう」
掛けられた声に、水面のが揺れる。
「ハハッ!マジで?」
「本当だよ!」
女子と笑い話す声に、水底が揺れる。
どうかこれ以上揺らさないで。
『好き』という気持ちが濁ってしまうから。
恋は汚い
嫌な女、自分でもそう思う。けど好きになってしまったのだから仕方ない。
決して報われない恋をしたのだから、仕方ない。
「な、なにを!」
「ちなみに、私のファーストキスだから」
隙をついて盗んだ唇の、温もりを覚える間もなく引き剥がされて。
忘れないで、どんな形でも。
14.01.31