卒業式も、最後のホームルームも終わった教室に二人きり。
普段から冗談ばかり言い合って、互いに異性として見ていなかった。……見ていない、フリをしていた。
「ああ、今日もオレの! オレだけの女神がどこかでオレを待っている!!」
「はいはい」
「大丈夫、きっとオマエの王子様もどっかで迷子になってるって」
「アンタと一緒にしないでよ! てか、王子様なんて待ってないわっ!!」
夢見るオレと、夢見ないオマエ。
「そもそも森山は、女子に夢見すぎ。第一、そんなむやみやたらに声掛けてたら、女神だって愛想つかすよ?」
「いいや、オレの女神はそんな狭い心の持ち主じゃあない! 誰よりもオレを愛してるからな!!」
「……その自信は一体どこから来るのよ?」
オレが夢見るように語る女神がオマエのことだなんて、知らないだろ?
「でもま、それでこそ森山『らしい』よね」
「ありがとう。オマエも十分魅力的だよ」
「はいはい。アリガトウゴザイマス」
オレが求める女神はオマエで、オマエの王子がオレならば。
「あーあ、早く彼氏作らないと『森山メルヘン病』うつされそう」
「なにをっ!?」
もしそうなれば、どんなお伽噺よりもハッピーエンドに出来る自信はあった。
……けれど、オレは勇気がなくて。
舞踏会を開いてはガラスの靴を持って、シンデレラの方からやってくるのをただ待っていた。
そんな未来があるということは分かっていたはずなのに、分かっていなかったんだろう。
「私、県外進学するんだ」
「へ、へぇ……」
放課後の教室に二人きり。そんな絶好のシチュエーションの中、知らせれた未来。
「アンタの言う私の王子様ってのも、案外そこで待ってたりしてね」
「そう、だな。見つけてもらえるといいな、オマエの王子様に」
オレのシンデレラは、ガラスの靴を置いて新しい道を歩き始めていた。
「好きだったよ、ずっと」
卒業式も、最後のホームルームも終わった教室に、オマエと二人きり。
「ふふっ、言わないでいたらいつまでも引きずっちゃいそうだからさ。はぁ、すっきりした!」
今にも零れそうな涙を溜めた目で、笑う。
「じゃあね。バイバイ」
何も言えず、動けず、立ち去る背中を見送った。
(ああ、これが夢なら……)
目覚めたら、伝えよう。『好きだ』って。
- end -
13.03.16