桜の花びらが舞うように、音もなく舞う雪のように、そっと、静かにそれは僕の中に降り積もっていた。
積もったそこに残る足跡は、ただ一人のもの。
僕の気持ちを知らず、気づかないまま無遠慮に僕の中に入り込んできた彼女。
「赤司ってさ」
「なんだい」
「出来ないことってなさそうだよね」
「……そんなことはないさ。僕も神様ではないからね」
僕が神ならば、きっとこんな気持ちを持つことなんてなかったはずだ。
こんなに邪魔で、煩わしくて、醜い気持ち。
(ああ、僕らしくない)
そう思うのに、目の前で彼女が笑うだけで、彼女が僕の名前を呼ぶだけで、浮き立つ心。
そんな僕の気持ちを知らず、キミは言う。
「赤司」
「なんだい?」
「私達、ずっと友達だよね」
僕を見ないままに問いかける言葉は、ただ1つの答えを求めていた。
「違うな」
「え、」
彼女が欲する答えは、僕の欲しい答えではない。
僕には出来るはずだった。僕の欲しい答えに、彼女の答えを変えることなど。
でも、それは違う。
彼女自身が、僕と同じ答えを求めることに、意味がある。
そうでなければ、
(彼女はただの人形になってしまう)
「オマエは僕の下僕だよ」
「ブッ!! なにそれ!!」
ケラケラと笑う声が、耳に心地いい。
その声を聞きながら、僕はそっと目を閉じる。……これでいい。
僕は神ではない、ただの人間で。
どんなに手を伸ばしても届かない、手に入れることが出来ないものがあると知っている。
願うことがどんなに愚かなことか、知っている。
だから、僕の中に積もったこの想いは封印してしまおう。
残された足跡に、自らの足跡を重ねて。彼女を消してしまおう。
「下僕でもいいよ。ずっと、そばにいれるなら」
「……変わってるな」
新しくついた足跡を、また消して。
(一体僕は、いつまでこんなことを繰り返すんだろうね)
- end -
13.03.21