「ちんなんかだいきらい」
そう言ったら、すっげー『傷ついた』て顔してたけど、知らない。だって、悪いのはちんなんだから。
「敦」
「……」
一年の教室なのに、最近室ちんはオレんとこにやってくる。朝練の時もくっついてくるし、休み時間も来るし、昼休みも。
部活行くのもわざわざ迎えに来るし。
(うざいなぁ、もう)
室ちんの顔を見たくなくて、声を聞きたくなくて、だからうつぶせてんのに、今日の室ちんはしつこい。
「敦」
「……」
「あつし」
「……」
「あーつーしー」
「……」
どんなに呼ばれたって、室ちんの言うことなんか聞きたくない。
だけど、
「あ、ちゃん」
「っ!!」
室ちんがちんの名前を呼ぶから。
「やっと顔を上げたね、敦」
「……」
あーあ、オレってばバカじゃね?
「さあ、話してごらん。なんで敦はオレとちゃんを無視するんだ?」
「……言いたくねーし」
「こら」
オレの前の席に座った室ちんが、ちんの名前を出すたびに胸の中がモヤモヤムカムカする。
小さくてふわふわしてて、ほにゃん、て笑うオレの彼女のちん。
『敦くん』て呼ぶ声が綿菓子みたいで、ずっと聞いていたいのに。
『敦くん』て呼ぶ唇がマシュマロみたいで、ずっとチューしてたいのに。
なのに。
「……だって、室ちんのこと呼んでた」
「えっ?」
『氷室先輩』て、綿菓子みたいな声で呼んでた。
「室ちんとチューしてた!」
「敦?」
『氷室先輩』て、マシュマロみたいな唇でチューしてた。
ちんはオレの彼女なのに。オレはちんのこと大好きなのに。
(ちんはオレのこと、好きじゃなくなった? オレより室ちんの方がいいの?)
そう思ったら、ちんの顔も室ちんの顔も見たくなくなった。だから、二人を見ないようにしてたのに。
「えっ、と。オレとちゃんが? キス、してた?」
「してた」
思い出したらすっごくイライラしてきた。
「それは、どこで?」
難しい顔で聞いてくる室ちんにすげーイライラする。ちんとキスしてたくせに!!
「オレの夢ん中で!! チューしてたし!!」
オレの夢なのに、初めて夢に出てきたちんは室ちんの名前を呼んで、チューしてた。
オレの夢なのに! オレとはチューしてくれなかった! こっち見てもくれなかった!
「敦……」
どこか笑いを含んだ顔で、室ちんがオレの後ろを指さす。
「敦くん」
「……」
べしょべしょになった綿菓子みたいな声が、後ろから聞こえた。
「夢の中のことだけど、一応ここは『ごめん』て謝るべきかな?」
立ち上がった室ちんはオレの頭にチョップして、笑いながら教室から出ていった。
「いてぇし……」
「敦くん」
後ろからふわり、と、首に回された腕はちんので。ちんの匂いが鼻先をくすぐる。
「夢の中のことでも、ごめんね」
「……べつに」
襟足にかかる息が熱くて、湿っていて、さっきとは違うモヤモヤが胸の中をぐるぐるし始めた。
「私が好きなのは、敦くんだよ」
「知ってる」
「キスするのも、敦くんだけだよ」
「知ってるし」
「『だいきらい』なんて、ウソだよね?」
「……そんなこと言ってねーし」
『大好きだし』
だから、オレの名前を呼んで。ちんからチューしてよ!
- end -
Title by is
13.04.11
湊様リクエスト
「むっくんと嫉妬からすれ違ってしまうけど、最後は仲直りしてハッピーエンド」
むっくんがただの駄々っ子になってしまった……