「な、なんで泣いてるんスかっ!?」
「っ!!!」
まさか見つかるなんて、誰かが来るなんて思いもしなかった。
それもまさか、まさか『彼』に見つかるなんて!
友達と喧嘩した。きっかけは些細なことで、もう覚えてない。
けど、売り言葉に買い言葉、というのか。友達の言葉に思わず私も、ひどい言葉を返してしまった。
(そんな風に思われてたなんて)
自分が完璧人間じゃないなんてことは、知っている。おっちょこちょいだし、そそっかしいし、その他諸々あるのは分かってる。
けど、友達の口から、自分でも気が付いていないようなところを責められて。
だから私も、ついポロリと、ちょっとだけ。普段あまり気にならないけど、でも、時々ちょっと気になっていたところを、まるで責めるような口調で言ってしまった。
(あんな風に言うつもり、なかったのに)
喧嘩した友達とは一緒に帰れるはずもなくて、放課後の空き教室の隅っこで、膝を抱えて反省してたら泣けてきた。
どうして私はこうも、考えが足りないんだろう? もっと優しくなれないんだろう?
「……、さん?」
「え?」
静かに呼ばれた声に顔を上げると、夕日でキラキラした髪が目に飛び込んできた。
それから、心配そうな目。
「な、なんで泣いてるんスかっ!?」
「っ!!!」
私の名前を呼んだ彼は、黄瀬涼太。私の、……好きな人。
(そうだ、思い出した)
友達と喧嘩したきっかけを思い出したら、カーッと頬が熱くなった。
喧嘩のきっかけ、それは……
「な、なんでもない! なんでもないの! 気にしないで!!」
「え、ちょ、さん?!」
黄瀬くんに見られていることに耐えられなくなって、私は急いで立ち上がって走り出した。
だって、だって、
『絶対黄瀬はアンタのこと好きだって』
『そんなわけないよ。だって黄瀬くんだよ? んで私だよ? 絶対ない』
『こういうのって、部外者が見てる方が分かるんだって。間違いない、黄瀬はのこと好きだよ』
『ないない、絶対ないって!』
『あるって!』
『ないってば!!』
そこから、互いの性格を貶すような言い合いになってしまって。だから、喧嘩のきっかけは、
(黄瀬くんが私を好きなんて、ありえないしっ!!)
「さんっ!!」
「っ!」
名前を呼ばれたのと同時に、肩と背中に走った痛み。さっきまでの涙と一緒に、新しい涙がポロリと落ちた。
「……うわぁぁぁあああああ!!!」
「き、せ、くん?」
私を壁に押し付けているのは、息を切らした黄瀬くんだった。
「ごごごめん!! こんな思い切り押し付けるつもりなんてなくって、ていうか、そんな力入れたつもりなったんスけどさんが軽いから、いやいやそんなことより本当、ごめんっ!! 背中、痛いっスよね? 頭は? 頭はぶつけてないっスか?」
ふわり、本当にそんな表現がぴったりくるくらい。そんな風に、壁に押し付けられていた背中に手が回されて、黄瀬くんの腕に抱きしめられた。
(え、ちょっと、え、なにこれ? 何がどうなってるの?)
背中に回された大きな手が、私の背中や後頭部をなでる感触がくすぐったくて、「ふっ」と息が漏れた。ら、
「うわぁぁぁあああああ!!!」
バッと思い切り、触れていた手が離れてしまった。頭の上にまで上げられたしまった黄瀬くんの手が、今まで私に触れていたのかと思うと、……頬に熱が集まって、悲しくも痛くもないのに、また涙が溢れてきそうになる。
「あああああああ、さん、泣かないで欲しいっス! あ、オレが触るのイヤならもう触らないし、痛いこともしないから! だから、」
頭の上まで上げられていた手が降りてきて、私へと伸ばされて、ぴたりと止まった。
「泣かないで」
私よりも泣きそうな顔で、私の好きな人がそんなことを言う。泣いていた私を追いかけて、勢いでも抱きしめてくれて。そして、私が泣かないように心配してくれている。
(もういいや。うぬぼれでもいい。)
伸ばされた手が、触れてくれないことの方がよっぽど悲しいから。私のために、そんな顔をしてくれるから。
(信じるよ、)
友達の言葉を信じて、伸ばされた手に私から触れる。
「え、ちょ、さん?」
「……」
でも、私から言葉にするにはまだ勇気が足りないから。
「きせくん」
名前を呼んで、目を閉じて。
- end -
Title by is
13.04.18
風宮様リクエスト
「黄瀬くんで壁ドン@同級生ヒロイン」
壁ドン、してるけど……きっと、リクエストいただいた内容と違う気がする(苦笑)