窓側の席で、太陽を背にして笑った顔が。
元から色黒な顔が影になって、笑った時に見えせる白い歯が印象的で。
そんな風に大きく口を開けて笑う青峰くんが、私はとても好きです。
……そんな青峰くんを、見つめることしかできない私だけど。
「おう、」
「あ、はい!」
新学期の席替えで、初めて隣になった時。
授業中だということを感じさせないくらい気持ちよさそうに眠っていた青峰くんに、課題のノートを見せてあげた時からなんとなく、挨拶程度はする関係になった。
その程度にも拘わらず、
「メシ」
「はい……」
何故か、桜井くんの次に、っていうくらい、お弁当をねだられるようになってしまった。
桜井くんと比べたら、『女子力ってなんだろう?』て考えてしまうようなお弁当だけど。それでも、お母さんに手伝ってもらわずに、私一人で作ったお弁当を、毎回残さず全部食べてくれるだけで嬉しい。
好きな人に、自分の作ったお弁当を食べてもらえるなんて、嬉しくないはずないでしょう?
(ただ、青峰くんの場合は、本当にお弁当だけなんだろうけど)
そこに込めた私の気持ちを知らないからこそ、こうしてねだってくれるんだろう。だから、私も余計なことは言わずに、自分のお弁当箱より一回りは大きいそれを差し出す。
けど、
「…………」
「あ、の」
いつもはお弁当を受け取ると、すぐどこかへ行ってしまうのに。今日はなかなか受け取ってくれない。……というか、見られてる?
「青峰くん?」
「あー、メンドくせぇ。行くぞ」
「え、あの、ちょっ」
はぁ、とため息をついたと思ったら。
重いバスケットボールを軽々と扱う手が、片方は2つのお弁当箱を、もう片方は私の手を取る。
「え、え、あの」
「ぴーぴーうるせぇよ。黙ってろ」
「……」
青峰くんがそう言うから。私はただ黙って手を引かれて歩く。
(なんで? どうして?)
そんな言葉が頭の中をグルグルする。
好きな人に冷たい言葉を言われたのに、なんでこんなに胸がドキドキするんだろう?
(だって、手が熱い)
黙ってろ、そう言って青峰くんは一言もしゃべらないし、私の方を見ないけど。つないだ手が、熱い。
もちろん、私の手が熱いだけかもしれないけれど、でも、そうじゃない気がする。
自分のじゃない、人の熱。
「メシ、いつも悪ぃな」
「え、あ、う、ううん。いいの、」
大きな背中から、ポツリと言葉が聞こえた。
「卵焼き、マジうめぇし」
「あり、がとう」
「唐揚げとか、マジやべぇ」
「そ、そうかな……」
ポツリ、ポツリと言葉が落ちてくる。落ちてくるその言葉が嬉しくて、くすぐったくて。
「のオフクロさん、料理うめぇな」
「お弁当作ってるの、私だよ?」
クスクス笑いながら教えたら、大きな背中が思い切り振り返った。
「ハァ?!」
「え、」
「マジかよ……」
手をつないだまま、青峰くんがしゃがみこむから。私も引っ張られてしゃがみこむ。
立っている時よりも近くなった目線に、またドキドキする。
「じゃあアレか。オレはオマエが作ったもんを、オマエのオフクロさんが作ったと思って食ってたのかよ……」
「ごめん、私が作ったなんて思わないよね」
アハハ、なんて。笑うしかない。私が作ったなんて、思われてなかった。
(ああ、だから残さず、きちんと食べてくれてたんだろうな)
ただ席が隣になったことがあるだけの、友達とも呼べない女子のお弁当なんて、普通ならねだらないものだ。
「今日のお弁当も、お母さんじゃなくて私が作ったの」
『だから、今度から青峰くんのお弁当はお母さんに作ってもらうね』
そう言うはずだった。そう、私が言う前に、
「そうか……の手作り、か」
そう言って、青峰くんが笑った。嬉しそうに、恥ずかしそうに、顔をクシャッてして、笑った。
「よし、メシ食おうぜ」
「あ、うん」
しゃがみこんだ時と同じように、今度は引っ張って立ち上がらされる。
けど、手が。さっきまでただ握っていた手が、いわゆる『恋人つなぎ』になっていた!
「あ、あおみねくん!」
「なんだよ」
「て、が」
「手? ……あー、別にいいだろ。好きなヤツの手ぐらい、どんな風に握ったって」
「…………え?」
サラリと告げられた言葉に、頭が真っ白になる。
(『好きなヤツ』、て言った?)
その言葉が嘘じゃないって、伝えるようにつないだ手が、ジワリジワリと更に熱を上げていく。
「青峰くん」
「ンだよ」
「おかず、何が一番好き?」
「アァ?」
顔は、上げられない。まだ、顔を見て言えないけれど。でも、私も伝えたいの。
「お弁当、好きな人の好きなもの、作りたいの」
「…………」
そぉ、と目を上げたら、青峰くんの真っ赤な耳が見えた。
- end -
Title by てぃんがぁら
13.04.19
ゆき様リクエスト
「青峰くんで青春で両想い。」
彼が今までどんな顔してお弁当食べてたのか、想像してみて下さい(笑)