「うわぁ……」
ソレを見た私の第一声は、どん引き以外の感情は含まれていなかった。
「うわぁ、とか言うなよ。みんなせっかく祝ってくれてんだからさ」
「うん、それは分かる。分かるけど……」
賑やかな『山』を見て、私はつくづく思う。
「高尾がどんだけ見境なく人に声掛けてるのか、ちょっと心配だわ」
「心配とか言うなよっ!!」
そこに出来た『山』は、本日めでたくもお誕生日であらせられる高尾和成くんへ送られたプレゼントで出来ていた。
女子からであろう見るからに力のこもったラッピングは目に痛いくらいで、男子からもらったと思われるそれは、女子とは逆にラッピングもされないまま、下手をすれば値札がついたままのものだったりと、貰った本人でもないのに見ているだけでも楽しかった。
「ま、確かに。正直名前知らねぇヤツからも貰ったりしたけどな」
「え、ナマモノも?」
「いや、流石にナマモノは遠慮した」
何かを思い出したのか、「アレはねーわ……」とどこか遠くを見ながら呟いた高尾の横顔は、ちょっと青ざめていた。私は高尾の好きなものを思い出して……うん、あの『好きなもの』でその顔するってことは、なんとなく想像つくよね。
「でも、みんながお祝いしてくれてるんだね」
「ああ。なんつーか、いいよな。こういうの!」
嬉しそうに笑う顔を見て、私もついつい笑顔になってしまったけれど、何か違和感。何かが違う。何かが……足りない?
「あっ!!」
「な、なんだよ。急に大声出して」
違和感があるはずだ。だって、『ソコ』は彼の指定席なのだから。
「ねぇ、緑間くんは?」
「あー……」
『山』となったプレゼントをのせているソレ、リアカーを見て高尾は小さく笑った。
「『オレはプレゼントではないのだよ』とか言って、さっさと一人で帰りやがった」
「確かに、この中に座ってたら緑間くんまでプレゼントみたいに見えるね……」
「ブフッ!!! ちょっ!! アイツがプレゼントとか!!」
何がツボったのか分からないけれど、高尾はお腹を抱えて笑い出してしまった。
(……うん、今ならタイミングばっちりかも)
気付かれない程度に深く息をして。いつもどおりの、なんでもない顔で、声で言えばきっと。
「じゃあ、私からのもこの中入れとくから。後で見てね」
そう言って、リアカーの『山』に小さな包みを放り投げた。……つもりだった。
「っと!!」
「え、ちょ、えぇ!? なんでキャッチしてんのっ!?」
私の投げたプレゼントは、『山』の中に埋もれる前に高尾の手に受け止められてしまった。
「オマエさぁ、プレゼントはちゃんと本人に渡せっての。こんな近くにいんだからさぁ」
「いや、その、……てか、なんでキャッチしちゃうのっ?!」
気持ちを込めたプレゼントだったけど、直接渡すのは恥ずかしくて。でも、渡せないのは嫌だったから大勢の中に混ぜて、それで満足しようと思っていたのに。
「そんなの決まってんだろ。好きなヤツからのプレゼントをその他大勢と一緒になんか出来るかよ」
「…………」
「……いや、そこで黙られても困るんだけど」
「なんて言っていいのか……」
高尾からの思わぬ告白に、私は一瞬にして顔が真っ赤になってしまって。
それを隠すように下を向いたけれど、チラリと高尾を見れば、高尾も見事なまでに顔が真っ赤だった。
「……ほら、なんか言えよ」
「えっと……」
何かと言われても。心臓がバクバク大きな音をたてているのが聞こえないのだろうか?
こんな状態で何か言えと言われても、私の頭の中には何も言葉が浮かばない。
(けど、これだけは言わなくちゃ)
年に一度の、高尾のためだけの日なのだから。これは伝えなくちゃいけないんだ。
「えっと。お誕生日おめでとう! 私、高尾がいてくれて本当に嬉しいよ!」
「っ!! オマっ、それ反則……!!」
私の言葉の何が反則なのか分からないけれど、高尾はその場にズルズルとしゃがみこんで頭を抱えてしまった。
覗き見える耳は、さっきよりも赤い気がした。
(んな笑顔全開で…!! オレだって、オマエがいてくれて嬉しいっつーの!!)
- end -
12.11.21