カタンカタン、と電車が小さく揺れるのに合わせて、彼女の頭も微かに揺れて。
ぽてり、とオレの肩にその頭が乗っかった。
いや、正確には頭だけじゃなくてオレの左側に彼女の、っちの右腕とか、とにかく右側がペタリとくっついているこの状況。
嬉しくないはずがない。だって、オレはっちのことが好きだから。
(でも、どう見ても『友達』としか見られてないっスよね〜)
たまに帰りのタイミングが合えば、こうして一緒に帰ることがあるけれど。それはきっと『友達』だから。
だって、彼女には『好きな人』がいる。
その存在を知ったのはつい最近。今日みたいにたまたま一緒になった帰り道の、何気ない会話の中で知った彼女の気持ち。
「好きな人? いるよ」
「えっ?!」
「そんなに驚くことぉ?」
「あ、いや、その……っちのそういう話、聞いたことなかったっスから」
突然知らされた情報に頭の中がパニクって、口がうまく回らないオレを見てっちはオレの好きな笑顔で言う。
「そう? これでも片想い歴長いんだよ?」
「そう、っスか」
長いって? どれくらい? いつからソイツのこと好きなんスか? ……色々聞きたいことはあったけど、どれも口に出来なかった。
聞いてしまったら、オレのっちへの想いが消されてしまいそうで怖かった。
っちの想いを聞いても、オレはこうして一緒にいて。
あわよくばオレのこと好きになってくれないかな〜、なんて思ったこともあったけど。
二人でいる時、好きな相手の話はあの時以来全くないけれど、時々、何かを思い出してニヤニヤしてたっち。
その顔を見れば、オレの入り込む隙間なんて見つからなった。
けど、……それがいつしか、電車の窓の外を切なそうな目で見る時間が増えて。
『好きな相手』と何かあったんだろうってのは容易に想像がついたけど、オレからは何も聞かなかった。
(そんなに苦しいなら、ソイツのことなんかやめちまえばいいんスよ)
寄りかかる熱を感じながら、オレも目を閉じる。
そして、願う。いつかっちがオレの横で、オレの好きなあの顔で笑ってくれたら。
「き、せ……」
「っち?」
いつもより近くにいたから聞こえた、小さな声に目を開けてその顔を覗き込むと。
(……う、わぁ)
寝言でオレの名前を呼んで、そして、オレが想像の中で描いていた、誰がどう見ても『幸せそう』というような顔で笑っている寝顔。
「オレ、諦めなくていいんスよね?」
そっと、自由な手で今まで触れたことのなかった髪を撫でると、閉じていたまつ毛が震えた。
- end -
『彼女の想い』は…⇒
13.04.25