どこにでもあふれている01



学生時代の恋なんて、振り返れば青臭くて甘酸っぱくて、可愛らしいものだったと思うかもしれない。
それでも、『今』この時は、本気で相手が好きで。その気持ちは、誰にも笑われたくない。
もちろん、自分にも。……けど、叶わない恋だと分かっていたら? 分かってしまったら?
そうしたら、自分が一番笑うしかないじゃない。「どうせ高校生の恋なんて」、そんな風にでも笑うしか。



「じゃあ、は?」
?」
私は男子バスケ部のマネージャー。だから、部員が着替えているであろう時間帯は部室の外で出来る仕事をやっている。そろそろ着替えもひと段落つく頃だろうと思って部室に戻れば、その外にまで聞こえる会話で足が止まる。
「だってよ、ってな〜んか高尾のこと見てね?」
「そうか?」
「てか、なんでお前がそんな事知ってんだよ? あ、もしかして」
「ち、ちげーよっ!! ただオレは思ったことをだな」
ねぇ……」
複数の部員の声。そして私の好きな人、高尾和成の声。
「ないわ」
普段と全く変わらない、その声から今の表情が思い浮かぶくらい、聞き馴染んだ声。
「いいヤツだけど、それと『付き合う』って別モノっしょ」
「キャー! 高尾クンったらサイテー!」
「オマエらだって一緒だろーが!」
笑い声が聞こえる。いつもどおりの、ふざけた会話。最低なネタで、ちっとも私は笑えない。
(なんてタイミング……)
自分のタイミングの悪さを呪いたい気持ちで、部室から離れようとしたその時、ドアが開いた。
(本当、なんてタイミング)
全てが駄目になったと思った。
けれど、目の前の人は後ろ手に、部室の中を振り返ることもなく静かにドアを閉めた。ドアの向こうでは、まだ会話が続いているのか、笑い声が聞こえる。
「……」
「……」
そっと目を上げれば、白い指先が神経質そうに眼鏡のブリッジを押し上げていた。

***

「オマエがアイツをどう思っているかなど、オレには関係ないのだよ」
「はい」
「だが……オマエの働きは評価している。こんな下らないことで、オマエの働きが悪くなることは、オレが許さん」
「はい」
「…………」
「…………」
「……隣の客は」
「よく柿食う客だ」
「……」
「ちゃんと聞いてるよ」
何故かあのまま、私は部室から出てきた緑間と並んで昇降口まで移動していた。緑間は決して、口が上手い方ではない。それは相方の高尾の役割だ。けれど、今の緑間はどうやら私を慰めようとしているらしい。
そう思うと、なんだか嬉しくなった。
「私、緑間に認められてたんだね」
「きちんと仕事をしてる人間は、評価に値するのだよ」
「そっか」
きっと、私は失恋した。そのことで胸は痛いけど、でも、この変人な緑間に認められていたことは素直に嬉しいと思う。
「だが、人を見る目はなかったようだな」
「ははっ、そうみたいだね」
その一言は、出来たばかりの傷にまだ痛かった。だから、小さく笑って、その痛みを隠すように俯いたのに、傷に塩を塗ったその人が、今度はその手で私の頭を撫でるから、
「……持ち上げたり落としたり、今日の緑間は大変だ」
「オマエの感情程ではないのだよ」

後で緑間は言った。

「オマエは器用だな。泣きながら笑うなど、オレには到底出来そうにないのだよ」

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14.07.19